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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)6814号 判決

原告

松山健一

被告

松崎浩和

主文

一  被告は、原告に対し、金五五万〇一二四円及び内金四五万〇一二四円に対する平成七年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金八三四万五九九一円及び内金七〇二万二九九一円に対する平成七年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、交通事故により損害を受けたと主張し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠(甲一の二、四ないし八、乙二、三、弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成七年五月一八日午後一一時一六分ころ(天候晴れ)

(二) 場所 大阪市港区弁天三丁目一番一八号先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(なにわ四〇れ二五三八)

運転者 被告

保有者 被告

(四) 被害者 原告

(五) 事故態様 詳細は争いがあるが、加害車両が、東西道路を西に向かって進行中、横断歩行中の原告と衝突した。

2  原告が負った傷害と通院の状況

(一) 原告は、本件事故により、頭部外傷、顔面挫創、頸部挫傷、腰部挫傷などの傷害を負った。

(二) 原告は、治療のため、次のとおり通院をした。

(1) 医療法人きつこう会総合病院多根病院に、平成七年五月八日、通院

(2) 同病院に、平成七年六月三日から平成八年三月二九日まで(実日数八日)通院

(3) 医療法人喜馬外科に、平成七年六月三〇日から同年一一月一日まで(実日数不明)通院

3  後遺障害

原告(昭和九年一一月一二日生まれ、本件事故当時六〇歳)は、平成七年一一月一日、症状固定した(当時六〇歳)が、右側頸部の圧痛、筋硬直などの後遺障害が残った。

自動車保険料率算定会は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号に該当する旨の認定をした。

三  原告の主張の要旨

1  本件事故の態様

被告は、東西道路を東に向かって進行中、駐車車両があるにもかかわらず、減速せず、前をよく見ないで、駐車車両の右側を通り抜けようとし、南から北に向かって横断中の原告の発見が遅れ、原告と衝突した。

2  損害

(一) 治療費 五四万八二五二円

(うち自己負担分四万七三四六円)

(二) 休業損害 二五二万円

原告は、土木基礎工事の請負を業務とし、作業員の監督のため現場に行く必要があったが、本件事故による傷害のため、約七か月間仕事をすることができなかった。そのため、代替要員を雇い、一か月の給料として三六万円を支払い、作業員の監督をさせた。

(三) 通院慰謝料 三四万円

(四) 後遺障害逸失利益 四四三万九五九一円

原告は、一年間に一一一七万五八一二円の収入を得ていたが、労働能力を五パーセント喪失し、その期間は一〇年である。

(五) 後遺障害慰謝料 九〇万円

3  損害のてん補

原告は、被告から、一七二万四八五二円の支払を受けた。

4  弁護士費用

弁護士費用は、一三二万三〇〇〇円が相当である。

四  被告の主張の要旨

1  過失相殺

被告は、東西道路を西に、信号機がある交差点に向かって進行中、原告が横断歩道の約一五メートル手前の地点で、駐車車両の陰から突然飛び出してきたため、原告と衝突した。したがって、被告に過失はないし、大幅な過失相殺(被告三〇パーセント)をすべきである。

2  寄与度減額

原告には、変形性頸椎症、腰部椎間板ヘルニアの既往症があった。したがって、被告は、私病については責任を負わないし、通常むちうち症に必要な治療期間三か月を越えて責任を負わない。

五  中心的な争点

1  過失相殺

2  損害(寄与度減額のほか、休業損害、逸失利益)

第三判断

一  本件事故の態様と過失について

1  証拠(甲三、原告と被告の各供述、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。(別紙図面参照)

(一) 本件事故現場の道路の状況は、アスファルト舗装され、平たんで、乾燥し、交通規制は、最高速度が時速三〇キロメートルに規制されている。また、市街地であり、交通量は普通であり、加害車両からの左方の見通しは悪い。

被告が進行した東西道路は、片道一車線の道路であり、西行き車線の幅員は、約四・五メートルである。

加害車両と原告が衝突した地点から西に約一五メートルの地点には、信号機がある交差点があり、横断歩道がある。

本件事故現場には、スリップ痕は残っていなかった。

(二) 被告は、東西道路の西行き車線の中央線寄りの部分を進行していた。

交差点手前の横断歩道から約一五メートル手前の、西行き車線の左側に、幅約一・八メートルの車両が駐車していた。

被告は、交差点の約三〇メートル手前の地点で、対面信号が青信号であることを確認し、約二〇メートル手前の地点で、右折指示器を出し、時速約二〇ないし三〇キロメートルに減速した。

加害車両が、駐車車両を追い越そうとしたとき、加害車両の左前方部分とほぼ接する位置に原告がいるのを見付け、ブレーキをかけたが、衝突し、さらに進んで停止した。

(三) 原告がどのように横断を開始したかは必ずしも明らかではないが、少なくとも、右方(東)の安全を確認しないで横断を開始したと認めざるを得ない。

2  これらの事実によれば、被告は、駐車車両があったのであるから、前をもっとよく見て進行すべきであり、過失がなかったとまではいえない。

また、原告は、右方(東)の安全を確認しないで横断を開始した過失がある。

これらの過失を比べると、原告の過失が大きいが、歩行者と自動車の衝突事故であることを考慮し、原告と被告の過失割合は、五〇対五〇とすることが相当である。

二  損害について

1  損害

(一) 治療費 五三万四四三二円

証拠(甲八、一三、弁論の全趣旨)によれば、原告は、治療費として、五三万四四三二円を負担したと認められる。

(二) 休業損害 一四六万五一三五円

(1) 原告は、約七か月間、仕事をすることができず、そのため代替要員を雇用し、一か月三六万円の給料を支払った旨の主張をし、甲一一号証(上中章利に対する平成七年六月分から同年一二月分までの各給料支払明細書)を提出する。

しかし、甲一一号証を検討すると、そもそも、これだけでは実際に上中に対し給料を支払ったとは認めがたい。また、これによると、毎月一定額の給料を支払っているが、その金額の根拠が明らかではない。また、原告の供述を検討しても、上中が実際にどのような内容の仕事をしたかが明らかではない。したがって、これをもとに、休業損害を認定することは相当でないと思われる。

(2) また、原告は、甲九号証(平成六年分の所得税の確定申告書)及び甲一〇号証(平成七年分の所得税の確定申告書)を提出する。

確かに、これによれば、所得金額のうち、営業による収入が一一九万一〇五二円減少していることが認められる。しかし、この減収が本件事故による減収であることを裏付ける証拠がない。したがって、これをもとに、休業損害を認定することはできない。

(3) ところで、証拠(甲九、乙一ないし三、原告の供述)によれば、原告は、松山興業という屋号で建設業を営んでいたこと、仕事の内容は、ビルの敷地の整地、掘削、基礎工事であり、原告は、工程表を作成し、必要な作業員を雇い、現場に配属し、現場を管理する仕事をしていたこと、原告は、平成六年には、八七九万〇八一二円の収入を得ていたこと、原告は、平成七年六月三日に多根総合病院に通院を始めたが、頸椎関節可動域制限なし、両手しびれなし、神経学的徴候なしと診断されたこと、平成七年六月三〇日の時点で、喜馬外科の医師は、就労が可能と判断し、原告に就労を勧めていること、通院中は、主にリハビリや薬剤による消炎療法を受けていたこと、原告には、後記認定のとおり、変形性頸椎症などの既往症があったことなどが認められる。

これらの事実によれば、原告は、本件事故による傷害のために、二か月間の休業を必要としたと認めることが相当である。

したがって、年収八七九万〇八一二円の二か月分である一四六万五一三五円を損害と認めることが相当である。

(三) 通院慰謝料 三〇万円

通院慰謝料は三〇万円が相当である。

(四) 後遺障害逸失利益 一二〇万〇三八五円

(1) 前記認定によれば、原告は、五パーセントの労働能力を三年にわたり喪失したと認められる。

(2) したがって、原告の逸失利益は、八七九万〇八一二円に五パーセントを乗じ、中間利息を控除して三年を乗じた(ホフマン係数二・七三一)一二〇万〇三八五円と認められる。

(五) 後遺障害慰謝料 八五万円

後遺障害慰謝料は、八五万円が相当である。

2  合計 四三四万九九五二円

三  寄与度減額

1  被告は、原告には既往症があるから減額をすべきである旨の主張をする。

2  確かに、証拠(乙一ないし三)によれば、多根総合病院の医師は、変形性脊椎症であると診断したこと、大阪船員保険病院の医師は、MRIによると、腰部椎間板ヘルニアは、外傷性ヘルニアではなく、変形性頸椎症は、加齢性の変化であり、交通事故の結果生じたとは考えにくい(ただし、これらの疾患があったため、症状が出現しやすかった可能性はある。)と診断したことなどが認められる。

したがって、原告が主張する損害全部(例えば、約七か月間の休業など)を見れば、原告の既往症が影響し、損害が拡大していることは否定できないと思われる。

しかし、原告は本件事故前には自覚症状がなく、通院をしていないこと(原告の供述)が認められ、既往症を理由に減額することには疑問がある。また、仮に既往症が影響しているとしても、前記認定の各損害は、既往症があることを考慮して、本件事故と相当因果関係を有する範囲内の損害に限定して認定しているから、さらに既往症を理由として減額をすることはしない。

四  過失相殺

損害合計四三四万九九五二円に過失相殺(被告五〇パーセント)をすると、二一七万四九七六円となる。

五  損害のてん補

原告は、被告から、合計一七二万四八五二円の支払を受けたことは争いがない。

したがって、過失相殺後の損害二一七万四九七六円から既払分一七二万四八五二円を控除すると、残金は四五万〇一二四円となる。

六  弁護士費用

弁護士費用は、一〇万円が相当である。

七  結論

したがって、被告は、原告に対し、五五万〇一二四円を支払う義務がある。

(裁判官 齋藤清文)

交通事故現場見取図

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